ミュールとかパンプスという単語を知ったのは、大学1年生のとき。それまでスニーカーを履いていた女の子がある日突然、スカートとヒールのある靴で目の前にいた。自分と並列だった人が、急に手の届かない存在になってしまって、それがしっかりと認識できて生まれる対象のない嫉妬。

もう少し具体的に言えば、これまで「adidasのスニーカー出たけど、買う?」なんて話していた子が、「ダイアナなり卑弥呼なりの靴履いとるやん」ってことで、急に女になっとる。でも、僕は変わらず新作スニーカーを追うことしか考えていないし、でも、それだとその子に不釣り合いだなと勝手に一歩引いてしまう。性差に対する嫉妬、とでも言えば伝わるだろうか。人それぞれ性差を感じるタイミングや象徴的なアイコンは様々だろうけれど、僕の場合は男子校を出てすぐのヒールのある靴だったということ。

 

久々にスーツをオーダーして、手元に届いた。1日着てみての感想を。今後着ていく中、手入れする中で色々と気付きも増えるだろうけれど、第一印象について触れてみる。

 

そう。今回のスーツを身につけて、なんとなく冒頭に書いた性差に対する嫉妬みたいなのがふわっとなくなった感じ。20年くらいかかっているけれど、ようやくヒールの高い靴の女の子の横にいても、まぁいいんじゃないの?なんて感じている。これは予想外の心象。なんでこんなことを思い出して、感じたのだろうか。

あ、そうだ、婉曲的にスーツ姿がカッコいいのだという文章を書きたかったのだ。

で、男の子でよかったなと思っているし、きっとこの長い僕の感想発表会に付き合ってもらえれば、それは十分に伝わるだろう。話を戻そう。今回手にしたスーツの第一印象の話だ。

 

  1. ポケットを完全に使わなくなる

ジャケットのうちポケットには、左胸に厚さ1.2cmの札入れ兼カード入れを収納し、右胸には0.8cmのiPhoneを入れていた。ただ、この厚みでさえ不快に感じるほどにフィットした。結果、これらは鞄という本来あるべき場所に収納されることになった。そして、万年筆だけを内ポケットに挿すという理想的な状況。

 

  1. 涼しさへの驚き

総裏、平織りの生地。28度のオフィス環境だったら不快ではない。生地は日本製、コルキス(Colchis)。初めて手にしたけれど、滑らか。嫌味な光沢はなく、いい感じのしっとりした感じの濃紺。季節的にも長く使えると思う。

 

 

  1. バルカポケット

胸ポケットは、テーラーの勧めもあってバルカ。立体的で視点は上に向く(という知識も教えてもらった)。既製品よりも、若干ポケットが高い位置にあるようにも感じている。無地の生地を選んだけれど、こういう細部に視点が移る(気がしている)。

 

  1. ボタンの低さ

これも既製品との違いだけれど、ボタン位置が数センチ低い。もっとも、丈も既製品よりは若干長いからこの差が生まれているのかも。Vゾーンが広く取れるので、窮屈感もなくなるし、顔も若干小さく見える(と良いな)。

 

  1. ウェストコート

ボタンは5つを選択。感動したことの1つだけれど、既製品は短いからシャツが出ることがあってとても嫌だったんだけど、今回は屈んでもシャツが見えない長さ。オーダーならではの満足だなって感じる。

 

  1. ズボン 仕様

いつもどおりベルトレスで、サスペンダー仕様。やっぱりスーツはサスペンダーがいい。ベルトループも排除できる。

 

7. ズボンの後ろポケット

後ろのポケットも使いたくないという希望があって、排除しちゃおうと思ったけれど、フィッターさんの勧めでダミーに。正解だと思っている。後ろのポケットを使えなくすれば、ハンカチでさえ入れないからということで、リネンのチーフを胸に挿しておけばよい。既製品もこうしちゃえば、財布を突っ込んだりしちゃう人が少なくなるのにね。

 

  1. ズボンの横のポケット

通常既製品だと斜めに切っている。これは手を入れやすくするため。でも、本来、手をズボンに入れるのは好ましい仕草とは言えない。今回はズボンに並行にポケットを。結果、想像以上に手を入れることが窮屈に感じる。だから、敢えて手を入れるという悪癖は根絶できそう。

 

サイズ感はフィッターの方にもよると思うけれど、以下、簡単に今回のオーダーの概略を列挙しておく。

(ジャケット)生地は既述。

  • シングル、ノッチドラペル 9.0cm幅。既製品よりも、0.5−1.0cm太いんだけど、嫌味な感じにならなくて安心している。若干高めにゴージラインがあるからかな。
  • ボタンは2つ、水牛のボタン(茶もあったけれど、黒ベース)
  • 袖は本切羽で、ボタン4つ。重ね付け。
  • 裏地はキュプラとポリエステル。できたらキュプラが良かったけれど、欲しい柄(ペイズリー)を優先。総裏。
  • サイドベンツ
  • サイズで結構こだわったのは、ウェスト。できる限り絞った。

(ウェストコート)

  • 基本的な仕様は、ジャケットと同じ。ボタンは5つ。
  • 個人的な好みだけれど、ウェストコート着たときのシャツの出る量は少ないほうが好きだから、狭め。タイもちゃんと抑えられる感じがする。

(ズボン)

  • ワンタック
  • 裾はダブルの糸留め、4.0cm
  • クッションはハーフくらい。裾幅は、18.5cm。当初僕は19cmを指定。テーラーさんはもう少し細く(18cmくらいに)してもいいのでは?とは若干議論になったけれど、結果、これで正解だなって思えるバランスになった。こういう議論があって、完成させられるのは良いテーラーさんがいるからできることで感謝は尽きない。

 

 

今回のオーダーの印象を端的に表現すると、サイズ感という部分ではやっぱり既製品とは段違い。あと、ポケット(機能)を削ぎ落としていくという部分はトライしてよかったこと。結果的には、スーツには何も入れなくなるし、シルエットも崩れない。これらが相まって、きれいにお尻や腰が見える。

あと、ウェストを結構絞ったので、手と腰の間に、しっかり空間ができることも嬉しいことの1つ。

そもそも、定番の1着を創るという目的だった。フォーマルな場面でも用いることができるようにという意図も。でも、これに慣れてしまうと、使用頻度増やしちゃいそう。それが心配。

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