SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が新聞に出ない日はなく、前身であるMDGsに影響を受け、今のキャリアに身を置く僕としては嬉しいことのひとつであることに疑いはない。ただ、ひとつのことを除いては。
ジャケットのラペル(上えり)、着用者の左えりには、横に切れ目が入っていて、この場所をフラワーホールという。歴史的に言えば、名前の通り生花を挿す。求婚する男子が、女性に花束を贈り、回答がYesであれば女性が一本の花をそこに挿すという。次第にこの慣習は廃れたが、切れ目は残っている。ブートニエールはフランス語のボタンホールが英語に転じたもので、ここに用いる飾り花及びホールそのものを指す。ややこしいけれど。最近だと、ラルディーニを着る人が増えて、そこに飾り花があることが少しだけ一般的になったのかもしれない。ま、やっぱりかっこいいなってなるけど、それは多分、ラルディーニというブランドの力に圧倒されている一般人の一人なのかもしれない。
さて、ある企業の経営者のスーツをメディアで拝見した。ラペルには、直径5cmはあるだろうと思われるSDGsのバッジ。もちろん、社章もその近くに。
本音で言えば、社章をフラワーホールに指す慣習を好きになれないし、したこともない。そこまで集団に対して忠誠心がないという理由もあるけれど、そもそもの慣習からかけ離れているからというのも理由のひとつ。理由のない装飾を好まない。理由のない行動も。理由のなさは、すべて無知と主体性のなさを示すと思っているから。
すべてのことに理由を求める姿は、必ず揶揄され、批判され、自分でさえ自意識過剰であるのだという自嘲を導き出すが。
さて、SDGsに取り組んでいるのだと周囲にアピールするには、たしかにウェブ上でその詳細を書き記すよりも、経営者のラペルにバッジがあるほうが効率的だし、視認性も高いに違いない。ただ、その商業的な理由で、服装を崩すことのほうがなんだか迎合的であり、やはり好きになれない。
さて、それで思い出したのがタイトルの「視線」。
視線を上に持っていくことで、足を長く見せるという秘技をフィッターの人から聴いたので、紹介しておきたい。
チーフを挿すこと。ストライプの生地。ゴージラインを少し上げること。チェンジポケットをつけること。
要するに一言でまとめるならば、視線を上に向けるように工夫・装飾を持ってくるということ。ご参考までに。
あ、そっか。
ラペルにSDGsバッジをつければ一挙両得じゃないか。
足の短さを隠しつつ、SDGsに取り組んでいることも示せるじゃん。
なんて、僕は思えない。装飾品の理由はひとつに留めるほうがいい。
ひとつの飾りにあれこれ理由をつけすぎるのもまた、冷静さを削ぎ落とし、余計に着用者の思考の混雑具合を示してくれそう。だから、僕は、リンスインシャンプー(飾りではないけれど)なんて買わないよ。
ほら、揶揄と批判をしたくなったでしょ。
読み返すと、僕自身も自分の文章に苛つき始めてしまう。
では、よい週末を。
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