【エッセイ】部下として、スーツへの素直な気持ち

5年位前だろうか。漫画の話になって、「キングダム」は面白いから見たほうがいいと勧められた。ふと、Amazon Primeでシーズン2まであることを知ったので、コツコツ1日1エピソードくらいで観ていこうと決めたが、1週間後には80話を全部観終わっていた。

誰だってそうかもしれないけれど、現実世界ではすぐに戦場で殺される名もない兵士の一人に違いない自分を、できるならば主人公に。難しいならば、他の(強いか賢い)登場人物に重ね合わせる。次第にそれでは飽き足らず、この登場人物はあの人のようだと、漫画と目に見える自分の周辺とを重ねる。

 

たまたまタバコ部屋で会社の実務上のトップと一緒になった。数カ月ぶり。仕事上、僕はこの人と一切の関係はない。役職で見れば、5階級以上違うのだろうか。300名に満たないといえども、そのトップを司る人と話しつつ、キングダムの頭になっている僕が、何も感じないわけはない。

 

最初、役職なんかは全く知らずに話した。夏だったかな。「お前、ジャケット暑くない?」だったか。たぶん、今の会社でネクタイとジャケットを年中着ているのは、僕くらいだから。僕は、「いいスーツと靴。役職者なんだろうな」くらいの印象。2ヶ月に1度くらい会う中で、仕事には関係ないことを10分位話す。美術館の話、春画の話、ブルックスブラザーズのセールの話、靴の製法の話。大抵の場合、生意気に知っていることを話すと、その御礼に数十倍の知識を手短にわかりやすく教えてくれる。役職を知って、少し調べたのはごく最近のこと。書籍を出されていたから、さっと読んでいた。内容は人事評価制度の作り方で、専門にしていたようだ。

 

タバコ部屋についてすぐ、「本出したらしいな」と切り出された。少し僕の話をしつつ、書かれていた本を思い出した。話を聞くと、20代後半から30代前半で4冊の本を書いていたらしい。やっぱり、この人抜けていたのだと改めて感じる。競争が激しい分野で、しかも本業。社内にだって当時自分よりも上の人間なんてゴロゴロいただろうに。

 

あいにく、組織というものに対しての忠誠心はゼロに近い。高校のころから、「集団」というものが苦手。だから、会社のためにどうこうしようという感覚も無いに等しい。ただ、「この人のためになら」とか「この人と一緒にいたいから」頑張ろうと思うことで、どうにか組織に居続けることができているし、ある程度までは耐えられる。今の会社であれば、この人の存在が大きく、あと一人、一緒に働けて嬉しいと思える人がいるくらいか。

 

キングダムを見て大将になりたいと目標に据えるほどに若いわけでもない。ただ、人は憧れる同性に接する機会がないと餓死することは、この漫画を観ていても感じられること。かっこいい男を見て、興奮しない男がいるならば話を聞いてみたい。

 

表面的ではなく、にじみ出るもの(これを僕はまだ文字にはできないし、今後もできないかもしれない)を持つ男。でも、一兵卒の僕でもキングダムを観たから、その要素のいくつかは文字にできそうだ。

・実績・底知れない知識を持つこと(あらゆる武将がそうであるように)。

 

・1:1の場面で、人:人として接する器量があること(キングダムの蒙ゴウがそうであったように)。

 

・身だしなみにその人を感じること(この人はブルックスブラザーズを愛用するIVY世代の人。ボタンダウンにネクタイをすることが多い。そして、いつも靴は美しい)

 

格好がみすぼらしい武将は誰一人として出てこない。仮にそんな武将がいたとして、誰が憧れるだろうか。

「スーツ、女の子のためよりも、部下のためにも着て欲しい」

 

これが、兵士としての素直な気持ち。

 

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次