【エッセイ】13歳の靴と身の丈と

「鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番ハンサムなのは誰?」

自分の美醜に関心があるわけじゃない(スーツ姿は除く)から、別にそういったセリフに共感ができるわけでない。ただ、靴は時を経て確実に自分を教えてくれる。良いことも反省すべきことも。時が形として残る。

 

 

Twitterを始めてよかったことの1つは、知識も経験も情熱もある人たちに触れることができること。例えば、靴。

靴(および靴磨き)が好きな人のつぶやきでは、コーディネート、方法論、購入した靴、磨いたあとの靴が現れる。Twitterを開けば1日に幾度となく目にできる光景(靴好きの靴箱を延々流すサイトなりYouTubeがあったらそれなりにページビューを叩き出すんじゃないかと想像して、時折ニヤニヤしている。少なくとも、僕は1日数分でも眺めてしまうだろう。)

そういう日々が続くと、ただ感心するだけではなく、やっぱり「自分も」となるのは、男子の性なのかもしれない。こんな夜中にゴソゴソと靴磨きセットを取り出して、1時間以上の時間を費やしてしまうのだから。それも、1.5年前にクラック(表面の割れ傷)が理由で引退させた子を改めて復活させようなんて試みるのだ。

 

 

 

靴磨きはよくスキンケアに例えられる。まず、汚れを払うためのブラッシングとリムーバーの塗布。これは、クレンジングを含めた洗顔だ。いきなりオイルを塗らない。いきなり乳液を塗らないように。

そして、靴に合わせたオイルを塗り込む。化粧水、美容液、乳液のイメージだろうか。次の工程の前に、15分から30分待つ。化粧水と乳液の間に若干の時間を置くように。必要な油分を浸透させるために。

最後に、余分なオイルを取り除く。その後、好きな人は靴の表面をピカピカにするためにワックスがけをするけれど、これは化粧のようなイメージかな。男性だったらBBクリームや日焼け止めでもいいけれど。

 

ちゃんとシューレースを解いて(一列は残しておく)やると少なくとも40分程度はかかってしまうし、1時間以上かかることもザラである。手も汚れてしまうから、なにか別の作業ができるわけでもない。何年も見ている靴だし傷の場所も把握しているから、未知から生じる興奮が生まれるわけではない。致命的なのは、爪が黒ずむこと。2.3日は気になってしまう。

靴はマネジメント能力を図る1つのバロメーターだからとは言うものの、別に毎日人に褒められるわけでもなければ、そもそも周囲の人に紳士靴の良し悪しが正確に分かる人は少ない。メンテナンスの良し悪しはわかってくれる人が、分かってくれればいい。

もちろん、自分の中では大金と言える金額を投じているわけで、できる限り長く使って元を取りたいという至極合理的な理由がないわけではない。ただ、それだけで何年も続け、愛着を持ってしまうのはなんだか理由としては足りていないようにも感じる。

 

では、継続させる(できる)モチベーション(もしくは、インセンティブ)はどこにあるのだろう。

 

それは「靴が鏡だから」という、少しポエマーな結論を思い付いたので、靴磨きを終えてなお、白紙のワードの前に座ったのだ。

そう、靴磨きは「自分を教えてくれる」。

 

写真の子は大学卒業後2年目に手に入れた靴で、もう13歳になる。

当時の僕からすれば「控え目な一足目」として選んだけれど、冷静に見るとそんなに地味でもない。ブローグもあり、ウィングチップ(オカメ)だ。プレーントゥやストレートチップを割と気合を入れた一足目として選ばなかったことは、無意識でもあり無知でもあったのだ。もう一度同じシチュエーションがあるならば、間違いなくストレートチップを推すだろうから。

 

また、クラックが出来た原因でもあるけれど、当時の僕は適切な手入れの方法を知らなかったし、知ろうともしなかった。この子の扱いはぞんざいであった。毎回履いたあとのブラッシングはおろか、1日履いたら1,2日休ませることもせずに連投は日常茶飯事。靴を履くときに靴べらを使っておけば、ヒールに変なシワも生まれなかっただろうし、かかとの天面もほつれることもなかったに違いない。せっかくのレザーソールを修理屋さんが勧めるままにゴムソールを貼り、窒息させていた。ソールの状態を僕は正確に把握していない。見えないようにしてしまったのだから。

そもそも、僕はこの靴がグッドイヤーウェルト製法であることを、購入後5年以上経って知ったのだ。ソールの交換もしてあげられていない。つま先のウェルトも履き方が良くなかったから潰れているし、ライナー(内側の革)にオイルを塗ることもしなかったから、割れまくっている。

 

 

自分の靴に対する知識と愛情のなさから生まれた結果。

 

それは、あまりに未熟な僕の20代から30代前半をそっくりそのまま表現している貴重な、2つとない宝物。

捨てることが好きな僕が、唯一「登板予定がない」のに所有している宝物。

その存在自体が、戒めになるから。

 

 

なんとなく調子に乗れることが多い1ヶ月でもあったし、地道な毎日と、爆発的な経済的な成功は、地続きじゃないようにも感じている。

 

だからこそ、時間の許されるときに、「身の丈」を自分で把握しておかなきゃなって。だから、この子を引っ張り出した。

最近のTwitterでの周囲の熱に感化されてしまった。未熟な13年が消し去るわけではないけれど、蓄えた知識を活用しつつ、これまでかけられなかった愛情を注いだら、また一緒にいれるかなって。

(テクニカルな話だけれど、クラックは、サンドペーパー(紙やすり)でこすって、表面をならすと良いらしいので、ごそごそとやってみた)

 

 

(若干ひかりの加減も影響するけど)左:Before / 右:After

 

 

 

さて、何を合わせようかな。月曜日が楽しみ。

 

あ、靴磨きは「自分を教えてくれる」から好きだなんて、それさ、要するに「靴磨きをして、自分を知ることが好き」と同義で、ナルシストやん!

書き終えて、継母と同じということに気がつくなんて。

まだまだ未熟なよう。

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