【エッセイ】僕とスーツとフィリピン3/3

『嫌われる勇気』(アドラー 2013)が日本で有名になる前、Tacandongはアドラーを好んで読み、自分で言葉を集めていた。そして、本にして取りまとめ、僕にもくれた。序文は、このアドラーの引用から始まる。

 

It is your attitude, not your aptitude, that determines your altitude.

(能力があなたを決めるのではない。あなたを決めるのは、心構えだ。)

altitude は高度だけど、ちょっと意訳。「あなた」が言い過ぎなら、「視座」くらいにしたほうがいいかもしれない。

 

この言葉は、似たような単語を正確に覚えさせてくれるというテクニカルな利点もあるけれど、僕にとっては、いつだって自分を取り戻させてくれる魔法のことば。あまりにふさぎ込むときには、健全なAttitudeを考え直すように。あまりに物事がうまく行き、調子に乗りそうなときにもあるべきAttitudeを考え直すように。

 

 

お別れのとき、彼が一言本に書き添えてくれた。

You are the one.

なんだかフィリピンの最終日にようやくスタートラインに立てた気がした。

さり気なく書籍にサインをする姿は、息をのむほどのかっこよさだった(ペンはParker)。いつか人生の中で書籍を書ければいいなと、ぼんやりと思ったのはこのとき(ま、結局、彼のようにさり気なくサインすることもなかったけれど。ただ、何かが叶うというのは、10年位はかかるのかもしれない)。

 

たくさんの「初めて」が詰まった時間とそれらとのお別れ。

 

当時、手探りで学んだ知識は日本にもあるのだろうか。本になっているだろうか。みんな知っているのだろうか。そうであって欲しいような、そうであって欲しくはないような。そんな気持ちでフィリピンをあとにしたことは、懐かしい感触。

 

数年に一度はフィリピンの主要紙の一面を飾るこの人は、相変わらずの様子。

でもね、Tacandong. 次に会ったら伝えるね。「タイとチーフの素材と色は一緒にしないほうがいいよ」って。スーツって領域だけなら、一応本を書いたっていうポジショントークをしても許してくれるよね。でも、もうあれから10年くらいたって、「プロらしい格好をしろ」なんて言わないだろうし、僕も服装のことじゃなくて、他の話もたくさんしたいと思っていて。

 

文字にするのはやっぱり難しい。

 

彼は、良きビジネスマン、良きメンター、良き上司。そして、父親と呼びたい人。だから、たくさん話したい。

 

フィリピンに移って数ヶ月。生活リズムが整い始めたころ。「異文化感受性発達モデル」で言えば、第2段階、「違いからの防衛」。自分と違うものを嫌い、ストレスに感じるタイミング。そんな感じだから、当然、周囲ともうまくいかないし、仕事もうまくいくはずがない。契約も1,2件取ってマンネリを感じていたころ。Tacandongの会社にも思うような収益をもたらせていなかった。

 

彼は一度たりとも売上のことを言わなかった。そればかりか、大抵の場合、会社で顔を合わせれば、「ちゃんと食べてるか」「休日はどこかにでかけたか」「夜はちゃんと寝れているか」そんなごくごく普通のことを心配してくれた。

 

ま、いつだって、僕の顔色は良くないけれどね。だとしても、COOの立場であれば、僕の体調なんかより、収益のほうが気になるだろう。

 

だからね、僕にとってフィリピンは特別。

僕とスーツとフィリピン。

スーツとの出会いは、ロンドンでも、パリでも、ナポリでもなく、マニラ。

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